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河川法

「河川法」と聞くと、河川改修工事やダム工事など、いわゆる「川そのものの工事」をイメージする方も多いのではないでしょうか。そのため、道路工事や造成工事、建築に近い現場を経験していると、「自分の現場には関係ない法律」と感じてしまうこともあるかもしれません。

しかし、実務の現場では、河川のすぐ近くで行う工事や、仮設ヤード・資材置き場の設置、土地の掘削や盛土など、河川工事でなくても河川法が関係してくる場面が意外と多くあります。

特に、これから土木施工管理技士を目指す方や、現場に出始めたばかりの若手の方にとっては、「どこからが河川法の対象なのか」「なぜ許可が必要になるのか」が分かりにくく、判断に迷いやすいポイントでもあります。

この記事では、土木施工管理技士が押さえておきたい「河川法」について解説します。

河川法とは

河川法は、河川を適切に管理し、公共の安全を守るために定められた法律です。河川法には、大きく分けて三つの目的があります。

ひとつ目は、洪水などの水害から人命や財産を守ることです。大雨によって川の水があふれたり、堤防が決壊したりすると、周辺地域に大きな被害が出てしまいます。河川法は、そうしたリスクを減らすために、河川周辺での工事や土地利用に一定のルールを設けています。

ふたつ目は、河川の水を公平に利用することです。河川の水は、生活用水や農業用水、工業用水など、さまざまな用途で使われています。特定の人や企業が独占的に使ってしまうと、社会全体に影響が出てしまうため、河川法では流水の利用についても管理が行われています。

そして三つ目が、河川環境の保全です。近年は、川を単なるインフラとしてではなく、自然環境や地域の景観として守っていく視点も重視されるようになっています。工事によって水の流れや周辺環境が大きく変わることがないよう、事前の確認や許可が求められます。

施工管理技士として押さえておきたいのは、河川法は「工事を制限するための法律」ではなく、「事故や災害を防ぐためのルール」だという点です。なぜ行政は細かく許可を求めるのか、なぜ一時的な工事でも対象になることがあるのか。こうした疑問も河川法の目的を知っておくことで、少しずつ整理できるようになります。

河川の種類と管理者

河川法を考えるうえで、施工管理技士としてまず確認したいのが、「その川が、そもそも河川法の対象かどうか」という点です。実は、すべての川に河川法が適用されているわけではありません。河川は、その重要度や役割によって区分されており、区分ごとに管理者も異なります。

一級河川とは

一級河川は、国土の保全や国民生活にとって特に重要とされる河川です。利根川や信濃川など、流域が広く、洪水時の影響が大きい河川が該当します。一級河川の管理者は、国(国土交通大臣)です。実務では、国土交通省や国の出先機関が窓口になることが多くなります。

施工管理技士としては、「国が管理しているスケールの大きな川」という認識を持っておくと理解しやすいでしょう。

二級河川とは

二級河川は、一級河川ほどではないものの、地域にとって重要な河川です。都市部を流れる中規模の河川などが該当するケースが多く見られます。管理者は、都道府県知事です。そのため、実際の相談先や許可申請先は、都道府県の土木事務所などになります。

一級河川と二級河川の違いは、規模や重要度にありますが、どちらも河川法が適用される点は同じなので注意が必要です。

準用河川とは

準用河川は、一級河川・二級河川には該当しないものの、市町村が「河川として管理する必要がある」と指定した河川です。管理者は、市町村長になります。

河川法のすべてがそのまま適用されるわけではありませんが、多くの規定が準用されるため、施工管理技士としては「河川法が関係してくる川」と考えておくのが安全です。

普通河川とは

普通河川は、上記のいずれにも該当しない河川です。小規模な水路や用水路などが該当することが多く、河川法は適用されません。

ただし、普通河川であっても、自治体独自の条例や別の法律による規制がかかる場合があります。「普通河川=何の制限もない」と早合点せず、不明な場合は自治体に確認する姿勢が大切です。

現場で特に重要な「河川区域」「河川保全区域」とは

河川法で多くの人がつまずきやすいのが、「どこからどこまでが規制の対象なのか」という点です。「川の中じゃないから大丈夫」「民有地だから関係ない」と思っていても、実は河川法の対象になることがあります。

ここからは、河川区域と河川保全区域の違いを整理していきましょう。

河川区域とは

河川区域とは、河川を管理するために必要とされる範囲のことです。一般的には、堤防と堤防に挟まれた内側の区域を指します。具体的には、川の水が流れている部分や高水敷、堤防や護岸などの河川管理施設といった場所が含まれます。

この区域は、洪水時に水が流れることを前提とした場所であり、原則として自由に使える土地ではありません。河川区域内で行う工事や設置行為は、内容に応じて河川管理者の許可が必要になります。

河川保全区域とは

河川保全区域とは、河川区域の外側に指定される区域です。堤防や護岸を守るために設けられており、原則として河川区域の境界から50メートル以内が指定されます。

ここで重要なのは、堤内地であっても河川保全区域に含まれることがあるという点です。つまり、「川から少し離れている」「宅地側の工事だから問題ない」と思っていた工事でも、河川保全区域にかかっていれば掘削や盛土、工作物の設置に許可が必要になる可能性があります。

河川法で許可が必要になる工事・行為

河川法が関係する工事というと、大規模な河川改修工事を思い浮かべがちですが、施工管理技士が日常的に関わる工事の中にも、許可が必要になるケースは多くあります。

仮設道路・仮設ヤードの設置

工事期間中に設置する仮設道路や仮設ヤードは、「一時的なものだから大丈夫」と思われがちです。しかし、河川区域や河川保全区域内で、土地を一定期間、独占的に使用する行為は、原則として「土地の占用」に該当します。

たとえ工事が終われば撤去する予定であっても、「資材の搬入路として使う」「重機の待機場所として使う」といった利用の仕方をする場合は、河川管理者の許可が必要になるケースがあります。

現場事務所・資材置き場の設置

現場事務所や資材置き場も、施工管理技士が関わりやすいポイントです。河川区域内では、民有地か官有地かに関わらず、工作物を新たに設置する行為は、原則として許可の対象になります。

特に、プレハブの現場事務所やコンテナ型の資材倉庫などは、「仮設」であっても工作物と見なされることが多く、許可が必要になる可能性が高い行為です。工事と一体となる簡易な足場や仮囲いとは、扱いが異なる場合がある点にも注意が必要です。

土地の掘削・盛土・切土

土地の形状を変える行為は、河川法の中でも特に重要な規制対象です。河川区域内で行う「基礎工事に伴う掘削」や「敷地造成のための盛土・切土」といった作業は、水の流れや堤防の安定性に影響を与えるおそれがあります。

そのため、規模の大小に関わらず、原則として河川管理者の許可が必要と考えておくと安全です。また、河川保全区域であっても、一定以上の掘削や盛土を行う場合は、同様に許可が求められるケースがあります。

フェンスや足場の設置

フェンスや足場は、「構造物としては軽いものだから問題ない」と判断してしまいがちです。しかし、河川区域内で設置する場合、それが土地に定着するかどうかが、ひとつの判断基準になります。

たとえば長期間設置されるフェンスや、地面に固定するタイプの足場などは、工作物として扱われ、許可が必要になることがあります。一方で、河川工事と一体となって設ける足場や仮囲いなどは、個別の許可を要しないとされるケースもあります。このあたりは、自己判断せず、事前に確認する姿勢が重要です。

「民有地だから大丈夫」は危険?河川法で勘違いしやすいポイント

河川法に関して、特に勘違いされやすいのが「民有地なら許可はいらないのではないか」という考え方です。河川法では、官有地か民有地かに関係なく、河川区域内での工作物の新築や土地の形状変更は、原則として規制の対象になります。

たとえば、河川区域内の民有地に仮設の現場事務所を設置する場合でも、工作物の新築として許可が必要になることがあります。「仮設だから問題ない」と思われがちですが、仮設であっても、河川工事と一体と見なされない場合や、独立して設置される建物については、許可が必要になるケースが少なくありません。

さらに混乱しやすいのが、「一体工事だから許可はいらないのではないか」という判断です。河川工事そのものに付随する足場や仮囲いなどは、一体工事として許可が不要になる場合がありますが、現場事務所や資材倉庫まで含めて、必ずしも一体と判断されるわけではありません。

「新築の許可をもらっているから、占用の許可はいらない」「掘削の許可は、工作物の許可に含まれているはず」といった思い込みも、試験・実務の両方でよく見られます。実際には、工作物の許可と土地の占用許可は別物として扱われることが多く、それぞれ個別に確認・申請が必要になります。

河川法は、細かい線引きが多く、感覚で判断しにくい法律です。だからこそ「少しでも迷ったら確認する」という姿勢を身につけておくことが、現場トラブルを防ぐ一番の近道になります。

無許可工事で何が起きる?
施工管理技士として知っておくべきリスク

河川法に違反して無許可で工事を進めてしまった場合、懲役や罰金といった罰則規定が設けられています。

また、施工管理技士の立場で考えると、特に影響が大きいのは工事そのものへのダメージです。無許可行為が発覚した場合、河川管理者から工事の中止命令や是正指示が出されることがあります。そうなると工程は一気に止まり、予定していた工期を守ることが難しくなります。

場合によっては、設置した仮設物や工作物の撤去、掘削した部分の原状回復を求められることもあります。これは、追加の手間やコストが発生するだけでなく、現場全体の段取りを大きく狂わせる原因になります。

さらに、発注者や元請、行政からの信頼低下も避けられません。「法令確認が甘い現場」「管理が行き届いていない現場」という評価は、次の仕事にも影響します。

若手の施工管理技士であっても、現場を任されている以上、「知らなかった」「教わっていなかった」では済まされません。だからこそ、河川付近での工事では、早い段階で法令を確認し、少しでも不安があれば上司や行政に相談することが大切です。

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