「i-Construction(アイ・コンストラクション)」は国土交通省が中心となって進めている、建設業の生産性向上プロジェクトで略してi-conとも呼ばれます。具体的には、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの先端技術を使って、現場作業や管理業務の効率化を進めていく施策です。
建設業界は年齢層が高いこともあり、アナログ業界の代表格といわれています。しかし、裏を返せばデジタル化の推進による伸びしろも大きいといえるでしょう。実際、土木やコンクリート工事の生産性は30年以上ほとんど進化がないと言われています。人手不足の解消や労働環境の改善を進めるためにも、テクノロジーによる課題解決は必須といえます。
i-conは「土木作業へのICT技術の活用」「コンクリート工事の規格標準化」「施工時期の平準化」の3つの施策で構成されています。ここでは1つ目のICT技術の活用に焦点を当ててみていきましょう。
先端技術による現場効率向上のために、さまざまな分野で取り組みが行われています。
施工現場の3Dデータ化もその一つ。ドローンなどを活用してコンピューターに現場の地形データを取り込み、施工計画の立案や作業の検証をすることで効率が向上します。紙面での説明だと伝わりづらい施工手順なども、視覚的な説明で共有しやすくなり、説明時間の短縮にもつながるでしょう。
また、3Dデータがあれば、平面図をいくつも組み合わせて複雑な計算をする必要もなくなります。必要な材料の拾い出しなども自動でできる時代がやってくるかもしれません。そうなれば施工管理業務の省略にもつながりますし、発注間違いによる工期の遅れなども無くなるでしょう。
また、現場の3Dデータがあれば、ICTで半自動施工ができる建機を導入することもできます。難しい作業が自動で行えるようになれば、オペレーターのスキルに依存することなく誰でも建機を扱えるようになります。また作業員を省人化できるうえ、そもそも人が居なくなってしまえば現場事故が発生しません。
こうした取り組みによって、建設業界は最先端テクノロジーを活用する環境に進化しようとしています。今後は、建設業で開発された技術が他の産業にフィードバックされるといったことが起こるかもしれません。
まずは公共事業など大きな現場からスタートして、普及して導入コストが下がれば一般の現場にも一気に広がる可能性があります。国が先導して推進している以上、普及までのスピード感も早くなるでしょう。今後の取り組みにも注目です。
建設現場のICT化が大きな柱になっている「i-Construction」ですが、実はICT化は「i-Construction」のコンセプトのひとつにすぎません。次は、同じくコンセプトのひとつである「コンクリート工事の規格標準化」についてみてみましょう。
「i-Construction」は、建設業における生産性の向上を最大の目的としています。建設現場のICT化は、それを実現するためのコンセプトのひとつ、という位置づけです。同じくコンセプトのひとつとなっている「コンクリート工事の規格標準化」もまた、建設工法の標準化を実現することによって、生産性の向上を目指す試みになります。
「規格の標準化」で具体的に実現が目指されているのは、建設工事に関わる「材料メーカー」・「建材メーカー」・「組み立て業者」のすべてが、部品生産の前の段階から、工事に関する情報の共有を行い、「全体最適」の考え方のもとで材料の生産やそれらの組み立て方法を考案することです。
現在の日本の建設現場では、建設材の製造は、それぞれの現場にあわせた「部分最適」の考え方で行われています。言い換えれば、建材はそれぞれの現場ごとに用途が限られた一品生産。そのため、建設工事ごとに建材を考案・発注・製造しなければならず、時間がかかるうえ、大量生産が難しい、またはそもそもできない、という現状があります。材料の大量生産が難しいということは、それらを組み立てる工法についても同様の事が言えます。「規格の標準化」は、これらの時間的、生産的な課題を解決するために、コンクリート工法に代表されるような建設材や組み立て工法の標準化を目指しています。件材や工法が標準化されることで、工期やコストが改善され、生産性の向上を実現できるのです。
「i-Construction」の3つのコンセプトのうち、「施行時期の標準化」もまた、建設現場の生産性を向上を図る施策になります。これは、行政から発注される大規模な建設工事の実施時期について、例えば従来のように年度末の一時期に集中されるのではなく、年間を通じて分散させることを目指すものです。
実際に、大規模な行政依頼の建設工事は、4月から6月までは閑散期となり、年度末には繁忙期になっていました。これを変えるために、「i-Construction」の取り組みとして、早期の発注や国庫の債務負担行為の活用などによって工事を計画的に発注することや、建設工事を行う地域や工事の性質をふまえた工期スケジュールの設定、建設の資材や人員を確保するために設立された「余裕期間制度」の活用、また、行政の予算活用を超える複数年度の工事に対する「国庫債務負担行為制度」、「翌債(繰越)制度」の活用などを実施して、工事の施工時期を年間で標準化させることが目指されています。
年間を通じて工事の実施時期が標準化されれば、建設会社の経営が安定が図れます。作業員も計画的に休暇を取ったり、長時間労働を避けられるようになります。こうした取り組みが進むことで働き方の改善につながり、建設業界全体の生産性を向上させることができるのです。
「i-Construction」の導入によって、様々なメリットが実現すると考えられています。例えば、「i-Construction」における大きな目玉である「建設業のICT化」では、主にドローンの活用による測量や検査によって、飛躍的に生産性が向上する、とされています。これまで人の手によって調査・把握されてきた現場の状態ですが、ドローンによる三次元測量や空撮によって、時間や労力が大幅に削減され、同時に正確性も高まるからです。
従来であれば、人間の足で何日もかかっていた測量検査も、ドローンであれば、航行する定点を定めたドローンを数時間ほど飛行させるだけで、困難だった三次元の測量検査まで行うこと可能です。航空写真はもちろん、得られたデータをPCに取り込めば、グラフ化や図面化、さらには建設計画のシミュレーションといった作業も思いのままです。また最近では、事務所にいながら土木施工管理技士が現場に指示を出すことを支援する「スマートグラス」の技術も高まっています。最新技術にサポートされた施工管理技士は、時間的、場所的制約を、従来より大幅に緩和されるのです。
建設現場におけるICT機器の存在もまた、「i-Construction」の導入で実現する技術です。これは、ユンボといった建設重機がコンピューターと接続されて自動操縦できるようになる技術で、従来であれば免許保持者による有人運転でなければ操作できなかった重機作業が、「i-Construction」によって誰にでも出来てしまえるものになります。
ICT機器は、操作さえ覚えれば、熟練した操作員ではない方でも操ることができます。免許や技術、さらには人件費といった様々な必要経費が抑えられるようになります。そのうえ、被災地といった人が入るには危険な現場であっても、ICT機器は作業可能。いちはやく復興作業が求められる現場などで活躍することでしょう。
「i-Construction」で最も懸念されているのは費用対効果、特に中小企業の技術導入に必要なコストです。大手ゼネコンや建設会社であれば、ICT機器やドローンの導入は難しくないかもしれません。しかし、こういった先端技術を中小の建設企業が導入するには、自社だけ賄う資金力、企業としての体力少ない、という現状があります。
ゼネコンの下請け企業ほど、資金も人手も足りていない状況ですから、今後、「i-Construction」がどれほど実現していくかについては、政府・行政による追加支援や、さらなる技術革新によるハードの低コスト化にかかっていると言っても過言ではありません。
また、最先端のICT化の設備を導入したとしても、そのコストを回収できるかどうかは、これからの課題と言えるでしょう。今後、政府が期待した通りに「i-Construction」によって建設企業の生産性が向上し、建設業の収益性が高まるのであればそれも見込めるかもしれませんが、それは業界全体の動向にかかっています。
現在の建設業界の生産性の低さには、様々な原因があり、抜本的な合理化が求められます。マニュアル作業や過剰な資料づくりといった過去の慣習を捨てるほどに、飛躍的な業界改革が行われなければ、「i-Construction」も机上の空論に終わってしまいかねません。
「i-Construction」の核心であるICT化は、ただ単に設備投資をすれば実現するものではありません。ドローン操作やデータの処理といった操作技術をマスターできる人材がいなければ、最先端のICT技術もその能力を発揮できないからです。
ここで大きな問題になるのは、建設業界における労働者の高齢化です。現在、いわゆる「団塊の世代」をはじめ、50代以上の技術者や作業員によって支えられている建設業界が、残り数年ほどで定年になってしまう彼らに、今から最先端のICT技術の習得を研修させるかどうかは、あまり現実的ではない、という指摘もあります。
逆に捉えるのであれば、これから需要が伸びてくる技術でもあるため、習得するための努力を行うことで様々な企業にとって、メリットを生み出せる人材になり得るという事です。
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